『前置詞がわかれば英語がわかる』

ちょっと誇大広告っぽいタイトルですが、ついついその書名に誘われて買ってしまいました・・・・・・いわゆるビジネス本って、この種の本以上にマユツバなタイトルが多いですね。本屋の書棚を眺めてみると、けっこう笑えます。

前置詞がわかれば英語がわかる

前置詞がわかれば英語がわかる

もちろん、本当に「前置詞がわかれば英語がわかる」わけはないのですが、常々、前置詞のやっかいさに苦しめられていた初歩の英語学習者の私にとっては、楽しく読める内容でした・・・・・1470円っていう価格はちょっと高いかもしれませんし、多くの前置詞の用法を網羅したリファレンス的な本を期待する方には向いていないと思います。

たとえば、前置詞のスパースター、"in"と"on"。

日本語の感覚では「〜の中に」と「〜の上に」ですから、おそらく日本人の多くは、「椅子にすわる」の「に」には"on"を選び、"I sit on the chair."などと言いたくなると思います。でも、ネイティブの連中には、"I sit on the chair."より、"I sit in the chair."という人が、3倍もいるそうです。では、何かに座るときはいつも"in"なのかというと、たとえば、「腰掛け(stool)」に座る場合は、"on"を使う人が、"in"を使う人の30倍もいるそうです。

"chair"と"stool"の構造上の違いは、背もたれや肘掛けがあるかないかです。ネイティブの人たちは、この2つに、「ケツの包み込まれ感」の違いを察知し、椅子は自分のケツを背もたれや肘掛けがつくった空間にすっぽり入れる感じがするから"in"、腰掛けはケツが丸出しだから"on"を選ぶのでしょう、と著者は言います。「椅子」に臀部ホールド感を感じる人が、英語人の中には、感じない人の3倍いる。へぇ、そうなんだぁ。

この"in"については、その感覚の広さの、英語と日本語の違いに、さらに入り込んで行きます。たとえば、「砂にかいたラブレター」は、棒か何かで砂の上に文字を刻み込むから、英語では、"love letter on the sand"ではなく、"love letter in the sand"になる。「海岸に積もった砂の量は少なくとも数メートルはあるだろうから、その表面を数ミリへこましたとしても、それは"on"だろうよ」と日本人は考えるけれども、英語人は、それは「いや、それは砂の中だ」と感じるようです。なるほどねぇ。

また、「黒衣の女」は、"woman in black"になります。夫の葬儀に立ち会う未亡人(woman)は黒い喪服(black)に身を包んでいますから、日本人にも"in"でしっくりきます。でも、"a man in a hat"、「帽子をかぶった男」だどうでしょう。「ええ、これも"in"かぁ!?」と思っちゃいますよね。"a boy in glasses"、"a girl in braces=歯の矯正金具をつけた少女"、はたまた、"a ribbon in her hair"なんてことになると、「英語って、オカシんじゃないの!」と言いたくなります。なるほど、英語の"in"は、日本語の「〜の中に」よりも、ずっとずっと広いようです。

何度も繰り返しますが、前置詞がわかっただけで英語が理解できるわけではありません。でも、自分の母国語にない感覚をもった言語を理解するとき、その「感覚」を意識してみることは、たぶん大切です。それは厄介な作業だけど、考えようによっては、面白いことかもしれません。それに、もしかしたら、相手の感覚を慮ることは、外国語を学習する場合だけでなく、同じ言語を話す人間同士のコミュニケーションにも共通して重要なポイントかも・・・・・・・いずれにしても、私にはなかなか面白い読み物でした。