マネキンとよばれる男

わが職場に、マネキン、とよばれる中年男がいます。
奴の痩身は、頭のてっぺんからつま先まで、毛という毛がすべて剃られているのだ、という噂は入社当時から耳にしていましたが、歓迎会の宴席で、それがまぎれもない事実だということを知ることになります。
宴たけなわの折、会場の居酒屋が暗転。スポットライトを浴びて、その男は登場します。青白く浮かび上がったツルツルの肌が、カラオケ機の前で踊ります。イチモツは股の間に挟まれているの見えません。手馴れた感じです。そして、その無生物感はなるほど、マネキンそのもの・・・・・大声を張り上げ、お気に入りを一曲歌い終えると、男はうやうやしく一礼して会場を出て行きました。
その芸は、宴会のみならず、しばしば「公然」と披露されているそうですが、彼はまだ一度も、逮捕されたことはありません。その無機質さが、見るものに「猥褻」さを感じさせないからでしょうか?
個人的には、一度だけ、この男に「猥褻」さを感じたことがありました。ある朝、職場の休憩所で一服しているところに彼がやってきました。見ると、そのツルツルのあたまに、一片のティッシュペーパーが張りついています。訊けば、朝風呂を浴びながら剃髪していたとき誤って頭皮を切ってしまった、とのこと。素っ裸には感じなかった「猥褻」感を、ティッシュのきれっぱしに感じるとは、人間の感覚とは実に面白いものです、草薙くん。