半どん

この春、わが町から「お昼のサイレン」が消えました。ただそれだけの話です。
戦前は正午に空砲がドンと鳴らされたそうですが、戦後は大砲に代わって消防署のサイレンが町に響くようになりました。当たり前のように、多くの市民はそれを生活の音として親しんできたのですが、ここ数年、「焼き泣けで寝ているのに」とか、「子どもが昼寝しているのに」、ウルサイという苦情が市役所に寄せられるようになったのが、廃止の理由だそうです。
学校も企業も「週5日制」が一般化していますし、すでに「半どん」なんて言葉は死語なのかもしれません・・・・・・昔は土曜日は半日仕事だったので、正午の空砲を合図に仕事をやめたことから、この「半どん」という言葉ができたのですよ、若い衆(笑)!
たかがお昼のサイレン、されどお昼のサイレン。たかが半どん、されど半どん。物言う人びとに、どうしてもお昼のサイレンが必要だということを合理的に説明することは難しいでしょう。でも一方で、多く市井の物言わぬ人びとが慣れ親しんできた風物が消えてゆくことは、やはり少しさびしい気はします。
生活の音が・・・・・朝晩うちならされるお寺の梵鐘しかり、豆腐屋のらっぱしかり、そうしたものが、ひとつずつ消えてゆくとしたら、日常はそれと比例しながら少しずつ、味気ないものになって行くような気がしてなりません。
この春、わが町から「お昼のサイレン」が消えました。ただそれだけの話です。