音楽ファイルのダウンロードと利用その3 「BitTorrentで音楽ファイルをダウンロード」

今回は、「BitTorrent」という仕組みを使ってファイルを共有し、結果的に、目的の音声ファイルをダウンロードする方法について書いてみようと思います。

1. BitTorrent」ってなに?

BitTorrent=ビットトレント」は、ブラム・コーエン氏が開発したファイル共有ネットワークのことで、不特定多数のインターネット利用者がお互いにさまざまなファイルを提供しあうことができるものです。こうした仕組みは一般に「P2P」と呼ばれており、BitTorrentのほかに、WinMXWinnyNapsterなどがあるようです。

2. クライアントの導入

BitTorrentを使ってファイルを共有するためには、「BitTorrentクライアント」をインストールする必要があります。主なクライアントは、以下の通りです。

    1. 公式BitTorrent
    2. ABC(yet Another Bittorrent Client)
    3. Azureus
    4. BitComet
    5. BitTornade

クライアントをインストールしたら、そのままで準備完了です。

3. BitTorrentトラッカーにアクセス

BitTorrentを利用してファイルを共有するためには、「トラッカー」と呼ばれるサーバーにアクセスします。ここでは、ユーザー登録が要らず、著作権の問題もクリアな「bt.etree.org」というトラッカーにアクセスしてみます。

    1. http://bt.etree.org/」にアクセスする。
    2. リストの中から適当に1つの「Show」を選んで、その名前をクリックする。
    3. 表示された詳細ページの「Torrent」欄にある、拡張子が「.torrent」のファイル名をクリックする。
    4. インストールしておいたBitTorrentクライアントが自動的に起動する。
    5. ファイルの保存先などを指定して、ファイル共有をはじめる。

BitTorrentを使ったファイル共有の手順は、以上です。とても簡単だと思います。同時に複数のTorrentに参加することも可能です。

4. ダウンロード終了までの時間など

ほとんどのクライアントで、「Estimated Time Left」などの表現を使い、ダウンロード完了までの予想時間が表示されると思います。その時間は、ファイルのサイズが大きいほど長くなるはずですが、実際は、必ずしもそうではありません。

一つのTorrentに集まっている人たちを「Peer=ピア=仲間」と呼びます。ダウンロードのスピード(ダウンロード完了までの所要時間)は、このPeerの人数に大きく影響されます。Peerが多ければ多いほど、つまり、ファイル共有に関わっている人の数が多いほどスピードが出て、文字通りの「Torrent=激流」になるわけです。
Peerは、「Seeder=シーダー=種をまく人」と「Leecher=リーチャー=寄生する人」の2つに分けられます。Seederは必要なファイルを100%持っている人のことで、最初は1人しかいません。Leecherは、Seederが持っているファイルを少しずつ自分のパソコンの中にダウンロードしますが、同時に、ダウンロードした部分を他のLeecherにアップロードしています。つまり、Leecherは、ダウンロードする側であると同時にアップロードする側にも立っていることになります。このような理由から、Seederだけでなく、Leecherの数もTorrentのスピードに影響してくることになるのです。
ということは、仮に、Seederが1人もいなくなってしまっても、そのTorrentは動きつづけることになります。しかし、Leecher全員がダウンロードし終わっているファイルを合計しても、当該ファイルの100%に満たない場合、Leecherたちは永遠にダウンロードを全うすることはできません。これが、BitTorrentの仕組みです。

5. ぜひ守りたい暗黙のルール

当該ファイルを100%ダウンロードしたLeecherは、その時点からSeederになり、一方的にファイルを供給する役割が与えられます。
「必要なファイルはすべて手に入れたのだから、もうそのTorrentにとどまる必要はないじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひここで、あなたがそれらのファイルを誰のおかげで入手できたのか、また、少し前までのあなたと同じように、そのファイルを必要としているLeecherがまだいるかもしれないということを思い出してください。BitTorrentはギブ・アンド・テイク、義理人情の世界なのでしたよね、健さん

BitTorrentトラッカー上や、クライアントのどこかに「Sharing Ratio=『貢献率』とでも訳しましょうか?」などという数字が表示されていると思います。この値は、「アップロード量÷ダウンロード量」で求められます。この数字が「1.00」未満ということは、獲得した分よりも供給した分のほうが少ないことを意味しています。言い換えると、まだ義理を果たしていない状態、ということになります。SeederとLeecherのバランスでアップロードのスピードが著しく低いとか、どうしてもパソコンの電源を切らなければならないなどの理由がない限り、ファイルが完全にダウンロードし終わった時点で「Sharing Ratio」が1未満だった場合は、できるだけSeederとしてそこにとどまり、他のLeecherたちのためにアップロードしつづけてください。

BitTorrentトラッカーの中には、「Sharing Ratio」が著しく低いユーザーを公表したり、出入り禁止にしているところもあります。だから、というわけではありませんが、先に書いたように、ここはギブ・アンド・テイクの精神が求められる世界なのだと言うことを忘れずにBitTorrentを利用したいと思います。

6. BitTorrent、闇の部分

1. 著作権の侵害
BitTorrentに限らず、いわゆる「P2P」ソフトウェアが世間から怪しげな視線を集めがちな理由は、まず第一に、それが著作権を容易に侵害しうるダーティーな仕組みなのではないか、と考えられているからだと思います。
たしかに、BitTorrentを利用すれば、市販のパッケージソフトや音楽CDなどを簡単に不特定多数の相手に配布することができます。事実、そのようなトラッカーは数多く存在するようです。
著作権法で保護されているソフトウェアを、著作権者に無断で複製・販売・配布することは、インターネットを使う使わないに関わらず、違法です。犯罪です。それらを店頭などでやり取りすれば、関わった人間は表に出るリスクをおかさなければなりません。この点、「インターネットの匿名性を利用すればバレないだろう」などと、甘く考えている人も少なくないようです。実際、一部のP2Pソフトウェアには完全な匿名性があったので、大きな社会問題にもなりました。
ここで知っておいていただきたいのが、「BitTorrentには匿名性はまったくない」ということです。BitTorrentを利用して違法行為をすれば、その主体者は容易に特定されます。事実、BitTorrentを使って著作権侵害を繰り返していた複数のノルウェー人が逮捕される事件もあったそうです。

2. スパイウェアやウイルスの混入
「お店では多額のお金を支払わなければならないソフトを、BitTorrentをつかってタダで手に入れちゃった、しめしめ」と喜ぶ前に、なぜ、そのような高価なソフトが無償で流れているのだろう、ということに思いをめぐらせるべきだと思います。
そうしたソフトウェアやファイルの中には、スパイウェアやウイルスやワームなどのオマケが仕組まれていたりすることも少なくないようです。先に書いた摘発のリスクを考え合わせても、そうした違法BitTorrentに関わるのはほんとうに得なことなのかどうかは、はなはだ疑問だと思います。

7. トラブルシューティング

私自身、これまで手探りでやってきた程度なので、さまざまなトラブルに対処する方法を知っているわけではありません。それでも、いくつか、起こりうるトラブルと対処方法について書いてみます。

1. スピードが上がらない
ダウンロードやアップロードのスピードは、さまざまな条件で変化しますが、もしかしたら、ファイアウォールブロードバンドルーターなどによって、ポートが閉じられていることが原因かもしれません。そのままでもBitTorrentは利用できますが、ポートの状態を確認したい、できればポートを開きたい、とお考えの方は、こちらのサイトを参考にして、ポートの開放を試みてみてください。

2. 利用できないトラッカーがある
先の「bt.etree.org」は例外ですが、多くのトラッカーは、利用するにあたって「ユーザー登録」と「ログイン」を課しています。そのようなトラッカーを使う場合は、各トラッカーの説明にしたがって、最初にユーザー登録(register)を済ませてください。
また、トラッカーによっては、JAVAなどを利用したクライアントが使えないものもあるようです。その場合は、別のBitTorrentクライアントを試してみてください。

8. 付録:手持ちのファイルをBitTorrentでシードしたい

1. トラッカーの選択
まず、BitTorrentの交通整理役ともいうべき、トラッカーが必要になります。BitTorrentトラッカーを構築するためのキットなどもあるようですが、私にはそれに必要なノウハウも環境もありませんので、試したことはありません。自前でサーバーが用意できる方はチャレンジしてみてもよいかもしれません。
そんなわけで今回は、既存のトラッカーを利用する「他力本願方式」をとらせていただきます。以下、何度も名前の出てきている「bt.etree.org」を例に挙げて説明させていただきたいと思います。

2. 音声ファイルの準備
パソコンの中にある音声ファイルが「FLAC形式」か「SHN形式」ならば、そのままでOKです。もし、「WAV形式」であれば、上のどちらかのファイル形式に変換しなければなりません。その方法は、こちらのページを参考にしてみてください。「SHN形式」は別途「MD5ファイル」が必要になったりしますので、「FLAC形式」がおすすめです。

「MP3形式」などは音質の問題から、bt.etree.orgには提供できません。さらに、「インターネット上でファイル交換することを認めている」アーティスト以外の音声ファイル、また、すべてのアーティストの動画ファイルも受けつけられません。

3. 情報ファイルの準備
音声ファイルが準備できたら、次に情報ファイルを作ります。ファイル形式は「TXT形式」が一般的です。内容は、アーティスト名、コンサートの年月日、コンサート会場と都市名、曲名一覧などです。具体的な記述方法については、他のTorrentの説明文を参考にしてみてください。全角文字(全角の「空白」も含む)は使わないでください。

4. Torrentファイルの準備
提供すべきファイルの準備は、上で終わりました。まずは、それらのファイルを、1つのフォルダの中に集めてください。音声ファイルと情報ファイルのほかに、自作ジャケットとしてBMP形式やJPEG形式の画像ファイルを同梱しても大丈夫です。また、フォルダ内にサブフォルダが存在しても問題ありません。
ここでは、フォルダの名前が大切になります。この名前はそのまま、ダウンロードした相手のパソコンの中のフォルダ名にもなるからです。「music」などというどこにでもありそうなフォルダ名にすると、相手のパソコン内に同じ名前のフォルダがあって、上書きなどの問題が出てくるかもしれないからです。ここはひとつ、アーティスト名や日付などをわかりやすく簡潔に書き表わしてみましょう。
フォルダ名の例:「GratefulDead2006-01-27.flacf」

ここまでの準備が完了したら、今度は、それらのファイルに関する情報をひとつにまとめ上げるTorrentファイル(拡張子=.torrent)を作る作業に入ります。

まず、「TorrentSpy」や「MakeTorrent」などのソフトウェアをインストールし、起動させます。

Torrentファイルを作るうえで一番重要なのが、トラッカーのアナウンスURLです。多くの場合「announce」の文字列が含まれますが、bt.etree.orgの場合は、2006年1月27日現在、「http://tracker.etree.org:6969/announce」となっています(もちろん、トラッカーが異なれば、このURLも変わってきます)。
次に、Torrentファイルの名前とフォルダを指定して、「Create Torrent File」をクリックします。コメントは、ここで記入しなければならない必要性はありません。

5. いよいよアップロード
「bt.etree.org」のトップページの上に並んでいるメニューの中から「UPLOAD」を選び、アップロード情報設定のためのページに進んでください。いよいよ、最終段階です。
ここでどうしても記入・選択しなければならない項目は、次の5つです。
①「Upload file」
「参照」をクリックして、上で作った「***********.torrent」を指定します。
②「Torrent name」
アップロードしたい「Show」の名前を記入します。これは、リストの中の見出しになるものです。定型はありませんが、アーティスト名や収録日・会場などを上手にまとめてみるとよいと思います。
例:Grateful Dead 2006-01-27 @ Budokan Hall, Tokyo, Japan
③「Description」
Torrentの説明文です。上で作った情報ファイルの中身をコピペすると簡単です。
④「Type」
Torrentするアーティストの名前を選びます。プルダウンメニューの中にない場合は、一番下の「Other」を選びます。
⑤「Verified to be Trade Friendly」
Torrentしようとするアーティストが、「自身の音楽ファイルを交換することを認めているアーティスト」であることを証明します。大丈夫でしたら、チェックを入れてください。
以上を記入したら、「Do it!」ボタンをクリックします。

しばらくして「アップロードは成功しました!」のメッセージが現れたら、作業は成功です。

しかし、作業はまだ終わりではありません!!!

上で作った「**********.torrent」を保存したフォルダに進み、その名前をダブルクリックします。すると、BitTorrentクライアントが起動し、「ダウンロード完了状態」になります。これで、すべての作業が終わりました。このあと、Leecherが現れれば、あなたはSeederとしてファイルを提供しはじめることになります。

9. 最後に

以上は、BitTorrentを奨励したり、または、批判したりすることを目的にかかれたものではなく、あくまでもその利用方法を簡単に説明しただけのものです。BitTorrentの利用にあたっては、ご自身の判断と責任が大前提となります。蛇足ですが、最後に付け加えさせてください。

上で触れられていないクライアントやトラッカーなどは、「google:BitTorrent client]」や「[google:BitTorrent tracker」などで捜してみてください。驚くほどの数の情報が得られるはずです。

私たちは、BitTorrentを利用するとき、自前で用意した機材を担いでコンサート会場に出かけ、「テーパーズ・チケット」という割高なチケットを買い、同好の士たちのためにそのライブを録音している、「テーパー」と呼ばれる人たちがいることを心にとめておきたいと思います。第三者からファイルの提供を受けてシードしはじめただけの人も、BitTorrentのための準備やファイルのアップロードにはある程度の手間と時間をかけています。もちろんそれらは、すべてボランティアです。彼らのことを「ただの目立ちたがり屋だ」と切り捨ててしまうことは簡単ですが、できれば、彼らが提供している音楽や彼らの努力を「Rating=評価」したり「コメント」してあげてください。何十人もの人がダウンロードを完了しているにもかかわらず、誰も評価してくれなかったり、一言もコメントが寄せられなかったりすると、とてもがっかりするものです。たとえそれがあなたの好みにあわない演奏だったり、お世辞にもよい音質とはいえない場合でも、「この音楽、好きなんだ。どう、いいでしょう?」という音源提供者の声なき声に、「Thank you.」の一言でもいいですから答えてあげられるくらいの余裕は持っていたいと思います。BitTorrentのスレッドで、よく「ないよりはましさ」という言葉を見かけます。そうです、どんな音でも、ないよりはましなのですよね!

最後の最後に、これまでBitTorrentについていろいろ教えてくださった先輩や友人たちに感謝の気持ちを表わしたいと思います。どうもありがとうございました。

この日記の内容を補完・修正してくださるコメント・トラックバックを歓迎します。みなさんのご協力で、BitTorrentを健全に楽しむ仲間が増え、このシステムが末永く利用されることを願っています。